8次の対称群の長さ8,7,6の巡回置換を含む部分群の位数は8×7×6の倍数
1. 概念の定義と具体例
定義 (群作用, group action)
有限群 $G$ が空でない有限集合 $X$ ($X \neq \varnothing$) に作用する (act) とは、写像 $G \times X \to X$ (要素 $(g, x)$ の像を $gx$ と書く) が存在し、以下の2つの条件を満たすことである。
1. 任意の $x \in X$ に対して $ex = x$ (ただし $e$ は $G$ の単位元)。
2. 任意の $g, h \in G$ と $x \in X$ に対して $(gh)x = g(hx)$ が成り立つ。
この写像は well-defined でなければならない。
定義 (軌道と安定化群)
群 $G$ が集合 $X$ に作用しているとする。ある $x \in X$ に対して、$G$ の作用によって $x$ が移り得る先の集合
$$ Gx = \{ gx \mid g \in G \} $$
を $x$ の軌道 (orbit) と呼ぶ。
また、$x$ を固定するような $G$ の元全体からなる集合
$$ G_x = \{ g \in G \mid gx = x \} $$
は $G$ の部分群となり、これを $x$ の安定化群 (stabilizer) と呼ぶ。同様に、複数の元 $x_1, \dots, x_m \in X$ をすべて同時に固定する元の集合を $G_{x_1, \dots, x_m}$ と書き、これも $G$ の部分群となる。
定義 (推移的, transitive)
群 $G$ の $X$ への作用が推移的 (transitive) であるとは、任意の $x, y \in X$ に対して、ある $g \in G$ が存在して $gx = y$ となることである。このとき、任意の $x \in X$ について軌道は全体に一致し、$Gx = X$ となる。
定義 ($k$重推移的, $k$-transitive)
自然数 $k \ge 1$ とする。集合 $X$ (ただし $|X| \ge k$) に作用する群 $G$ が $k$重推移的 ($k$-transitive) であるとは、$X$ から相異なる $k$ 個の元を選んで作った任意の順列 $(x_1, \dots, x_k)$ と $(y_1, \dots, y_k)$ に対して、ある $g \in G$ が存在し、すべての $i \in \{1, \dots, k\}$ について $gx_i = y_i$ が成り立つことである。
例 (軌道と安定化群の具体例)
対称群 $S_3$ が集合 $X = \{1, 2, 3\}$ に自然に作用しているとする。
元 $1 \in X$ の安定化群 $(S_3)_1$ は $1$ を固定する置換の集まりであり、$(S_3)_1 = \{ (1), (2 \ 3) \}$ となる。したがって $|(S_3)_1| = 2$ である。
また $1$ の軌道は $S_3 \cdot 1 = \{1, 2, 3\} = X$ であり、その要素数は $3$ である。
群全体の位数 $|S_3| = 6$ であるため、$6 = 3 \times 2$ となり、以下で述べる軌道・安定化群定理を満たしていることが確認できる。
2. 重要な定理と補題
定理 (軌道・安定化群定理, orbit-stabilizer theorem)
有限群 $G$ が有限集合 $X$ に作用しているとき、任意の $x \in X$ について以下の等式が成り立つ。
$$ |G| = |Gx| \cdot |G_x| $$
特に、$G$ が $X$ 上で推移的に作用している場合は $|Gx| = |X|$ となるため、$|G| = |X| \cdot |G_x|$ が成立する。
補題1 (推移性と安定化群の共役)
群 $G$ が集合 $X$ 上で推移的に作用しているとする。このとき任意の $x, y \in X$ に対して安定化群 $G_x$ と $G_y$ は共役となる。すなわち、ある $g \in G$ が存在して $G_y = g G_x g^{-1}$ が成り立つ。
証明:
$G$ は推移的であるため、$gx = y$ となる $g \in G$ が存在する。任意の $h \in G_x$ に対して、$g h g^{-1} y = g h x = g x = y$ となるため、$g G_x g^{-1} \subset G_y$ である。逆包含関係も $g^{-1} y = x$ を用いることで同様に示されるため、$G_y = g G_x g^{-1}$ を得る。
補題2 (多重推移性の判定)
群 $G$ が $X$ に作用しているとする。群 $G$ が $k$重推移的 ( $k > 1$ ) であるための必要十分条件は、$G$ が $X$ 上で推移的であり、かつ任意の $x \in X$ について安定化群 $G_x$ が $X \smallsetminus \{x\}$ 上で $(k-1)$重推移的となることである。
証明:
$G$ が $k$重推移的ならば推移的であることは明らかである。また、任意の $x$ を固定したとき、残りの $k-1$ 個の元の組を自由に動かせるため $G_x$ は $X \smallsetminus \{x\}$ 上で $(k-1)$重推移的となる。
逆に $G$ が推移的であり、ある特定の $a \in X$ の安定化群 $G_a$ が $X \smallsetminus \{a\}$ 上で $(k-1)$重推移的であるとする。補題1より任意の $x \in X$ の安定化群 $G_x$ は $G_a$ と共役であるため、$G_x$ も $X \smallsetminus \{x\}$ 上で $(k-1)$重推移的となる。これらを組み合わせることで、$X$ から選んだ任意の相異なる $k$ 個の元の組を別の組へ移す置換を構成できるため、$G$ は $k$重推移的となる。
3. 主定理の完全な証明
定理
8次の置換群 $S_8$ の部分群 $H$ が長さ8, 7, 6の巡回置換を含むならば、その位数 $|H|$ は $8 \times 7 \times 6$ で割り切れる。
証明:
$S_8$ が自然に作用する集合を $X = \{1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8\}$ とする。条件を満たす部分群を $H \subset S_8$ とおく。
ステップ1: $H$ は $X$ 上で推移的である
仮定より、群 $H$ は長さ8の巡回置換 $\sigma_8$ を含む。
$\sigma_8$ は $X$ の8つの要素すべてを一つのサイクルとして巡回させるため、$\sigma_8$ が生成する巡回群 $\langle \sigma_8 \rangle$ は $X$ 上で推移的に作用する。
$\langle \sigma_8 \rangle \subset H$ であるから、群 $H$ の $X$ への作用も当然に推移的である。
ステップ2: $H$ は $X$ 上で2重推移的である
仮定より、群 $H$ は長さ7の巡回置換 $\sigma_7$ を含む。
$\sigma_7$ は $X$ のうち7つの元を巡回させ、残りの1つの元を固定する。固定される元を $a \in X$ とおく。
$\sigma_7 a = a$ であるため、$\sigma_7$ は $a$ の安定化群 $H_a$ に属する。
$\sigma_7$ は差集合 $X \smallsetminus \{a\}$ の上では長さ7の巡回置換として作用するため、$\langle \sigma_7 \rangle$ は $X \smallsetminus \{a\}$ 上で推移的である。
ゆえに、部分群 $H_a$ も $X \smallsetminus \{a\}$ 上で推移的である。
ステップ1で $H$ が推移的であることが示されており、かつ $H_a$ が $X \smallsetminus \{a\}$ 上で推移的 (すなわち1重推移的) であるため、補題2により群 $H$ は $X$ 上で2重推移的である。
ステップ3: $H$ は $X$ 上で3重推移的である
仮定より、群 $H$ は長さ6の巡回置換 $\sigma_6$ を含む。
$\sigma_6$ は $X$ のうち6つの元を巡回させ、残りの2つの元を固定する。固定される相異なる2元を $b, c \in X$ とおく。
$\sigma_6 b = b$ かつ $\sigma_6 c = c$ であるため、$\sigma_6$ は $b$ と $c$ の共通の安定化群 $H_{b, c} = H_b \cap H_c$ に属する。
$\sigma_6$ は差集合 $X \smallsetminus \{b, c\}$ の上では長さ6の巡回置換として作用するため、$\langle \sigma_6 \rangle$ は $X \smallsetminus \{b, c\}$ 上で推移的である。
ゆえに、部分群 $H_{b, c}$ も $X \smallsetminus \{b, c\}$ 上で推移的である。
ステップ2で $H$ が2重推移的であることが示されている。2重推移的な群においては、任意の2点の組から別の2点の組へ移す元が存在するため、任意の相異なる2点に対する安定化群はすべて互いに共役となる。
したがって、ある特定の組 $(b, c)$ の安定化群 $H_{b, c}$ が残りの集合 $X \smallsetminus \{b, c\}$ 上で推移的であれば、任意の相異なる2元 $x, y \in X$ に対する安定化群 $H_{x, y}$ も $X \smallsetminus \{x, y\}$ 上で推移的となる。
群 $H$ が推移的であり、1点安定化群 $H_x$ が推移的 ($H$ が2重推移的)、そして2点安定化群 $H_{x, y}$ が推移的であるため、補題2を繰り返し適用することにより群 $H$ は $X$ 上で3重推移的であることが結論づけられる。
ステップ4: 軌道・安定化群定理を用いた位数の計算
群 $H$ は $X$ 上で推移的であるから、ある固定した $x \in X$ に対して軌道・安定化群定理を適用すると
$$ |H| = |X| \cdot |H_x| = 8 \cdot |H_x| $$
が成り立つ。
次に、群 $H$ が2重推移的であるため、安定化群 $H_x$ は $X \smallsetminus \{x\}$ 上で推移的である。ある固定した $y \in X \smallsetminus \{x\}$ に対して同様に軌道・安定化群定理を適用すると
$$ |H_x| = |X \smallsetminus \{x\}| \cdot |H_{x, y}| = 7 \cdot |H_{x, y}| $$
が成り立つ。
さらに、群 $H$ が3重推移的であるため、安定化群 $H_{x, y}$ は $X \smallsetminus \{x, y\}$ 上で推移的である。ある固定した $w \in X \smallsetminus \{x, y\}$ に対して定理を適用すると
$$ |H_{x, y}| = |X \smallsetminus \{x, y\}| \cdot |H_{x, y, w}| = 6 \cdot |H_{x, y, w}| $$
が成り立つ。
これらの式を順番に代入すると、群 $H$ の位数は
$$ |H| = 8 \times 7 \times 6 \times |H_{x, y, w}| $$
と表される。
安定化群 $H_{x, y, w}$ は有限群 $H$ の部分群であるため、その位数 $|H_{x, y, w}|$ は正の整数 (自然数) である。
以上より、条件を満たす部分群 $H$ の位数は $8 \times 7 \times 6$ で割り切れることが完全に証明された。
4. 参考文献
- Thomas W. Hungerford, Algebra, Springer. (群作用、軌道・安定化群定理、対称群の性質に関する標準的な教科書。Springer公式)
- David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, Wiley. (群の多重推移性や安定化群の性質に関する詳細な議論。Wiley公式)